こんにちは、神結です。
長らく間が空きましたが、カバレージ余話の第2回です。
前回はこちら。
ドレッドノート革命
突然ですが、皆様は「ドレッドノート」という船をご存じでしょうか?
こっちじゃないよ。
これは1906年に進水した英国の戦艦です。ただ別に大きな海戦で活躍した戦艦だったという訳でもないです。実戦経験は一応あるんですがね。
しかしこのドレッドノート、間違いなく1900年代初頭で世界に最も影響を与えた戦艦でしょう。
“ド級〇〇”“超ド級の××”みたいな言葉を聞いたことある人も多いのではないでしょうか。このド級の「ド」とは、実はドレッドノートのことを指しています。ド級といえばドレッドノートと並ぶ、超ド級と言ったらドレッドノートを超える、という意味になっています。これだけでも或いは、ドレッドノートの凄さというのが伝わるのではないでしょうか。
ではドレッドノートのどこがそんなに凄かったのでしょうか?
それはドレッドノートがあまりに革命的かつ強力過ぎて、生まれた瞬間からそれまでのあらゆる戦艦を全て過去のものにしてしまったからです。
走行速度とか射程距離とか軍艦に関するあれこれを書いてもしょうがないのでデュエマで例えますが、要は《蒼き団長 ドギラゴン剣》の登場によってそれまでの環境デッキの大半が過去のものにされてしまったのとほぼ同じことが起こっています。
伝わりましたか? たぶん伝わりましたね。では進めましょう。
これはドレッドノート革命などと呼ばれていて、近代海軍史を語る上では避けられないテーマです。ドレッドノートが登場したことで各国がド級・超ド級戦艦の開発に着手し、その競争が激化。そしてその結果終わりのないマラソンが見えてしまったことにより、「海軍軍縮条約」の締結によって国際的に競争の鎮静化を図った、という流れになります。
皮肉にもドレッドノートを開発したことで、開発した当国であるイギリスすら開発競争に巻き込まれてしまい、第一次大戦の頃にはすっかり旧式艦になってしまっていました。しかしその存在は、歴史大きく動かし、時計の針を未来に進めたと言えるでしょう。
というのが一連のドレッドノートに関する歴史です。
なぜこんな話を書いたかと言うと、ドレッドノート革命がカバレージでも起こったからです。
ドレッドノート革命とイヌ科
2018年3月。全国大会2017が行われ、dottoさんが全国王者となりました。
その後全国大会2017のカバレージが公開された中で、とある一つのカバレージが(カバレージ界隈で)注目を集めます。
それはこの時初めて公式ライターとして抜擢されたイヌ科が書いた、「全国大会2017準決勝 dotto vs. ピカリ」のカバレージです。
これを読んだ方は、こんなことをふと思ったかもしれません。
「んー、確かに面白いしシチュエーションもエモいカバレージだけど、デュエマのカバレージってだいたいこんな感じじゃない? そんな凄いの?」と。
仰る通りで、この感想は合ってます。
何故ならこのカバレージはドレッドノートであり、これ以降の現代カバレージがド級ないし超ド級カバレージだからです。
要するに、イヌ科のこれを読んだライターが「あ、これを書いていいんだ」となって今のカバレージがあります。このカバレージが公開された瞬間、それまでのカバレージは悉く旧式となってしまったのです(少なくとも、私はそう思ってます)。
この新しい時代の基準こそが、イヌ科が書いた準決勝のカバレージなんです。最近のカバレージはここを通って来ているので、「デュエマのカバレージってこんな感じだよね」と思ったとしたら、それは当然なんですね。
では当時、このカバレージの何処が斬新だったのでしょうか?
それはこのカバレージが「ゲームの内容についてかなり突っ込んで記述をしながら」「プレイヤーに大きくフォーカスしたカバレージであった」という点です。プレイとプレイヤーの話を両立された最初のカバレージだったんです。前回のラストで書いた問題点を見事に解消しています。
やっぱり、デュエマというゲームに詳しいのはデュエマプレイヤーであり、プレイヤーの背景に詳しいのもデュエマプレイヤーなんです。これは完全にデュエマ出身のライターという部分が活かされました。
誤解のないように言及しておくと、前者だけなら(当時基準で言えば)条件を満たすカバレージは多数ありますし、後者についてもヤスさんがこの年のエリア戦でかなりプレイヤーの背景に言及したカバレージを書いています。しかしこの両方を満たしたと思えるカバレージは、これが最初でした。
これまで「随分思い切ったな」みたいな感想を抱くことはありましたけど、「やられた」とまで思ったのはこれが初めてでしたね。
このカバレージは「石版に刻まれた(刻んだ)」などと呼ばれており、《チャラ・ルピア》くんのFTでその名残を感じることが出来ます。
こうして、デュエル・マスターズのカバレージは新たな時代を迎えることになりました。
以降のカバレージは当然、超ド級を基準に書かれています。そりゃ後発の方が性能が高いので面白いでしょうし、内容も深いと思いますよ。でもそれって当たり前の話で、この準決勝についてもいま改めて読んでみると普通にも見えるんですが、それを普通にさせたのは紛れもなくイヌ科の実績なんですね。
古きを一度焼き払って自分の基準で建て直したという意味で、「イヌ科が外から火を放った」って表現は、ニュアンスを捉えているんじゃないでしょうか。一回焼き払って燃え尽きた後、残った基盤の上に再建された家が、今のカバレージなんです。
ここまで読んだ方は私がめっちゃイヌ科さん好きみたいな印象を持つかもしれませんが、別にそんなことはないんですよ。どちらかというと三振かホームランかみたいなタイプだし、〆切破りの常習犯だったし、色々とむず痒く思うこともあるんですが……。ただし、この功績についてだけは決して覆らないと思っています。
イヌ科さんは良くも悪くも周囲の雰囲気とか、お約束などには拘束されないタイプの人です。「カバレージとはこういうものだ」みたいなものを彼が持っていなかったために、このカバレージは生まれたと思っています。
もちろんイヌ科が関西のプレイヤーで、dottoさんたちの背景を知っていて、そして彼らが準決勝でぶつかるという大きな幸運(両者が勝ち進んだのが幸運という話ではなく、このシチュエーション自体が一生に一度あるかないかで、その機会に恵まれたのは紛れもなく“運が味方した”と解釈していいでしょう)はあったのですが、幸運を手にしたときに人がどういった行動するかはまた別の問題です。
その点で言えば、自分はこの年の関東エリア決勝でずっと中野で一緒に遊んできた東條のカバレージを書く幸運に恵まれましたが、その幸運を活かせませんでした。前回も書きましたが、自分には「公式は厳格であり、ライターの個性を封印し、遠慮すべき場所」という思い込み(カバレージを書くときに特に指定もされていないので、本当に思い込みです)から脱することは出来なかったんですね。
しかしイヌ科には、そういった思い込みはなかったんです。これはイヌ科さんの特徴であり、強みだと思ってます。シンギュラリティ的なものが起こるときには、こうしたタイプの人間が必要なんでしょう。
ちなみに最初にこのカバレージを読んだ後の私は、それはもう荒れましたね。
なんというか、初めてデュエマで敗北感を味わいました。私は当時もうプレイヤーとして一流には届かないと思っており(逆にこれに関しては、いまは否定しています)、知り合いのプレイヤーがどれだけ強くなろうと、目の前のゲームに負けても別に反省はするにせよ敗北感というものとは無縁だったんですよ。「プレイヤーとしてトップにはなれないけど、『文章を書けるプレイヤー』という立場ではトップになれるだろう」と漠然と思っていたからです。
しかし、それを思いっきり後ろから刺された気分でした。
その立場にいると思うなら、このカバレージくらいは平然と書けなきゃダメなんじゃねぇの? ってなるじゃないですか。それがもう本当に悔しくて。
以降の私は、自分のカバレージというものをかなり見つめ直しています。当時は普通に社会人もやっていたのでオールインは無理だったのですが、色々試行錯誤しながら、主催に売り込んでCSでカバレージを書かせてもらったり、一大会を総括出来るようになるため、予選から本戦まで一人でカバレージを書いたりと、まぁ出来ることは結構やりました。
その甲斐あって色々な人に記事(文章)を読んでもらえるようになりましたし、明らかに自分のカバレージは進化したし、自信を持って他人に見せられるカバレージも出来るようになったしと、この経験があったからこその今があるかなぁとは思っています。その点だけは、イヌ科さんに本当に感謝してます。
2回目のドレッドノート革命はあるのか?
最後に。
現状のカバレージは結構あるべき方向に正統な成長をしていると思っていて、更にその上でライターの個性を活かせるだけの基盤もあります。ですので、書き方などの派閥は分かれても、そこで留まるケースのことの方が多いんじゃないかな、と思っています。
例えばばんちきくんがプレイヤーの高度なテクニックに相当寄せて書いたり、みたいな話ですね。公式カバレージを読み比べてみると、結構それぞれの個性はありますよ。
しかしここから新しい切り口を目指そうとすると、形而上学的だったり、印象派に近いようなカバレージとかは将来的に登場するかもしれませんが、果たしてそれは革命なのか。それでもまだ、分岐かなっていう気がしますね。
もっとも革命というのは理由はあれども思いも寄らないタイミングで発生するものでもありますから……。
「我こそは革命児だ!」と思う方の参戦は、心より歓迎しています。
というわけで、今回はここまでです。
それでは、また。
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