Writer:ジャイロ
『最強』、勝負の世界に身を置くものなら誰もが一度は追い求める称号である。
それは、彼等深夜vault部の面々にとっても例外ではない。
深夜vault部は垢BANチキンを中心として組まれたvault限定のデュエルマスターズ調整グループ。仲良しこよしのグループとは一線を画する。無限のカード群の中から『最強』のデッキを追い求める調整グループであり、そのストイックな環境に淘汰された者もいるほどだ。
日々『最強』を求める同志達であるが故に気づく。「真の『最強』は誰かを決めたい」という欲求に。
こうして始まったのが今回の #深夜vault部模擬全国大会 である。『最強』という単語が惹き付ける魔力は絶大だ。そこに価値を見いだして広報が現れる。『最強』を称えるためのスポンサーが現れる。現にこうしてカバレージを書いている自分ですら、その魔力に惹き付けられたプレイヤーの1人だ。
そんな『最強』を決める戦いも佳境を迎えた。そう、決勝戦だ。深夜vault部という猛者の集う環境を勝ち抜いたプレイヤー達について触れていきたい。
しずは現環境2トップの一角を担う4cデイヤーで決勝まで漕ぎ着けた。4cデイヤーの強さを端的に表すとするなら、「構築制限の少なさ」にあると考える。リストを見てみよう。
2コストブーストを9枚採用しつつ、次のマナ域へと繋げる《天災 デドダム》《κβバライフ》もそれぞれ4ずつ搭載。メタカードである《解罪 ジェ霊ニー》《斬罪 シ蔑ザンド》はGR召喚も可能な欲張り設計だ。ここまで色が散らばったカードを積んでいても回せる、いや、GRクリーチャーが回しているといった方が正しいだろう。デュエルマスターズをする上で欠かせない手札とマナの補充、これらを一手に請け負うGRクリーチャーが最大限活かせる。これが4cデイヤーの強みだろう。
強みはこれだけにとどまらない。4cデイヤーはGRゾーンの《ヨミジ 丁-二式》を使い任意の効果を無限に使い回すフィニッシュループを……
ここである”違和感”に気付く。普段なら《腐敗麗姫ベラ》や《ひみつのフィナーレ!》といった相手の山札を削るカードが採用されているが、しずのデッキにはそういった類いのカードが見当たらない。
ここにデッキビルダーしずのビルディング力が見受けられる。しずがフィニッシュに決めたのは《「本日のラッキーナンバー!」》だ。
《「本日のラッキーナンバー!」》を無限に使い回すことでほとんどの反撃札を封殺した上で安全にトドメをさすのがしずが定めたフィニッシュである。フィニッシュ以外の使い道が少ない《腐敗麗姫ベラ》や《ひみつのフィナーレ!》と違い、《本日のラッキーナンバー!」》は序中盤で腐ることがほとんど無い。加えて、墓地メタとして採用されている《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》は自身の墓地を山札に返すループパーツとしての側面もあわせ持つ。まさに無駄の無い構築である。決勝戦に進んだのは順当な結果だろう。
対するはヒラヒラ。プレイの正確さが如実に現れるデュエルマスターズ・プレイスにおいてレート1位に輝いた実力は相当である。ヒラヒラが秀でているのはそれだけにとどまらない。環境を読みきる力もかなりのものだ。
時を遡って大会2日前。今回の深夜vault部模擬全国大会を開催するにあたり、運営のまひろから話を伺った。
今大会はどんな環境になりうるか、と。
まひろがあげたのは
・準備期間の短さ
・デッキ賞の存在
の2点である。まとめると、準備期間が短い故に現在の環境をそのまま反映したかたちになるだろう。また、デッキ賞の存在はプレイヤーの構築意欲を煽る。ミラーや不利対面を意識したアクセントが添えられるだろう。
その通りであった。先に述べたしずはメタカードとしてもループパーツとしても機能する《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》を採用していた。垢BANチキンは赤単B-我に《こたつむり》を刺してメタカードとして機能させつつ自身の動きを通している。
話を戻そう。まひろの考える通りの環境となっていた。それをヒラヒラは読みきっていたのだ。
ヒラヒラが今回決勝に持ち込んだのはアグロ零龍。構築の幅を利かせやすいデイヤーには持ち前のスピードをもって有利がつきやすい。《ヨミジ 丁-二式》によるループフィニッシュを目標に据える4cデイヤーは序盤の動きとトリガーをマナ加速に集中させている。早期の決着を狙うアグロ零龍にとって、盤面に直接的な影響を及ぼさない4cデイヤーは格好の餌食となる。一般的に不利対面とされるバーンメアやカリヤドネに対しても最大値をぶつけることで対抗が可能だ。
前置きが長くなったが、決勝戦はしずの4cデイヤーとヒラヒラのアグロ零龍。さっそく見ていこう。
1本目 先攻:ヒラヒラ
ビックアクションを2~3ターン目に据えるアグロ零龍は1枚目のチャージから高度なプレイが求められる。ヒラヒラの繊細なプレイングの一端が垣間見える瞬間だ。
長考の末、《暗黒鎧 ダースシスK》をマナセットし《ブラッディ・クロス》を唱える。墓地に《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》を2枚送り込み、「復活の儀」「破壊の儀」の準備を整えた。
しずが動けない4ターン目までに決めてしまいたい。ヒラヒラはまたも長考を挟み、《怨念怪人ギャスカ》を召喚し、手札の《死神術士デスマーチ》《ステニャンコ》を墓地に送り込む。
《零龍》で5点いれて殴り勝つプランを見据えたようだ。
まずは「手札の儀」を達成し《バルバルバルチュー》をGR召喚。盾と引き換えに後続の手札を確保。まずまずの滑り出しだろう。
続く3ターン目は2体のクリーチャーを餌に《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》、《ステニャンコ》を使い、残る儀式も達成し零龍卍誕でゲームエンドまで…それだけは絶対にさせてはならない。
それは対面のしずが一番理解しているはずだ。
ここから、4cデイヤーが環境トップである最大の理由が見られる。
無月の大罪を使い《斬罪 シ蔑ザンド》で《バルバルバルチュー》を破壊。次のターンの零龍卍誕を咎めつつゲームを長引かせる。デッキの出力上、しずは長引かせれば長引かせるだけ有利となるため最善の選択だろう。
ヒラヒラは《怨念怪人ギャスカ》によるプランを組んだ以上後に退くのは難しい。ひたすら《零龍》による1点突破を狙う。《ステニャンコ》を召喚し、盤面に復活の儀達成となる餌をセットする。
先ほど同様《斬罪 シ蔑ザンド》などで処理できれば良かったが…《天災 デドダム》によるリソース確保のみでしずはターンを返す。
これ以上のロングゲームはいただけない、既にしずのマナは4まで到達している。マナドライブ域まで行くとヒラヒラの敗北は決定的だ。
まずは先ほど揃えた《ステニャンコ》《怨念怪人ギャスカ》をリリースし《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》をバトルゾーンに。「復活の儀」達成となり墓地にカードが2枚追加、これにより「墓地の儀」も達成。しずの《天災 デドダム》が破壊されたことで「破壊の儀」もトリガーする。
零龍卍誕。
「破壊の儀」で《死神術士デスマーチ》を回収済みのヒラヒラ。打点は揃った。《零龍》がしずのシールドを焼き払う。
が、ヒラヒラの残り打点は《死神術士デスマーチ》のみとあまりにも脆すぎた。否、しずのトリガーが強すぎたとも言えるか。しずは《フェアリー・ライフ》と2枚の《κβバライフ》をトリガー。
これにより、しずのマナは7という値千金のラインに達する。《κβバライフ》は《マリゴルドⅢ》を呼び、《マリゴルドⅢ》は《スゴ腕プロジューサー》を、《スゴ腕プロジューサー》は《ヨミジ 丁-二式》を呼ぶ。
連鎖は続く。もう1枚の《κβバライフ》も《マリゴルドⅢ》を呼ぶと《解罪 ジェ霊ニー》で更なる打点を形成。
しずが完全に受けきった形となる。トリガーから呼び出された5体のクリーチャーはヒラヒラの4枚の盾を割りトドメを刺せる…と思われた。
《死神術士デスマーチ》がいることを除けば。
先の攻撃で届かないと判断し、ステイした《死神術士デスマーチ》はヒラヒラを守る盾としてしずを迎え撃つ。これではトドメまで一歩届かない。
《BAKUOOON・ミッツァイル》《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》が見えない以上、SAの形成は不可能。これまでか?
いや、しずが見据えたのは別の糸口であった。《“魔神轟怒”万軍投》による3回のGR召喚。狙うは1点のみ。1-6c3/7c3、43%という確率はしずを勝者たらしめるのに十分過ぎた。
《アカカゲ・レッドシャドウ》!
不可避の一撃はヒラヒラを守る盾を1枚奪う。早期の《零龍》着地に全てを注いだヒラヒラは知っていた。アグロ零龍というデッキにトリガーが無いことを。
しず 1-0 ヒラヒラ
まずは環境トップの意地とでも言うべきか。王座はそう簡単には明け渡してはくれないようだ。とはいえ、デッキとしての有利はヒラヒラにあるとも取れる。両プレイヤーは既に2回戦の準備を整えている。
2本目 先攻:ヒラヒラ
1回戦に比べると短い思考時間でプランを固めたヒラヒラ。《堕魔 ザンバリー》を召喚して墓地に《ステニャンコ》をセット。更に《暗黒鎧 ダースシスK》を盤面に呼ぶ。手札から《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》、山札からは野生の《ビックリーノ》を呼び込む。ヒラヒラ、何かを”持っている”ようだ。
この何かを”持っている”というのは非常に恐ろしい。これじゃなければ何でも…といった状況すら”持っている”相手にはひっくり返される。しかもヒラヒラが握るのは現在のデュエルマスターズにおいて最大値がトップクラスのアグロ零龍である。
まだ1ターン目にも関わらず、《怨念怪人ギャスカ》を使わずして「手札の儀」を達成。呼び出すは…
《シニガミ 丁-四式》。やはりヒラヒラという男、何かを”持っている”。
2ターン目、《ビックリーノ》《シニガミ 丁-四式》を破壊して《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》
をセットアップ、またもや《シニガミ 丁-四式》がGR召喚される。《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》+《シニガミ 丁-四式》を《ステニャンコ》に変換して「復活の儀」「破壊の儀」「墓地の儀」を立て続けに達成。
零龍卍誕。
あまりにも速い《零龍》の誕生はしずに選択肢すら与えない。ワールドブレイクに対してしずは《フェアリー・ライフ》《りんご娘はさんにんっ娘》と必死の抵抗を示す…
が、先攻2ターン目では頼みのGR召喚も十全に機能はせず、しずは自らウィンドウを畳んだ。
しず 1-1 ヒラヒラ
アグロ零龍というデッキタイプの登場により一部の者達は「デュエルマスターズが壊れた」などと囃し立てた。もちろんそんなことなどなく、現在の環境トップに《零龍》は存在しないのだが、この状況を目の当たりにすると「壊れた」と評したくなる気持ちも分かる。
あまりにもライター泣かせである。
申し訳ない、私情を挟んでしまった。
お互いに一歩も退かず最終戦までもつれ込んだ。深夜vault部模擬全国大会も遂に最終戦である。優勝賞金33,000円(Amazonギフト)を手中に納めるのは構築のしずか、デッキ選択のヒラヒラか。
3本目 先攻:しず
《天災 デドダム》をマナにセットし色の確保を行うしず。最高の1ターン目だろう。
だが、同じ最高の1ターン目ならどちらのクオリティが高いか、それは火を見るより明らかだ。
1ターン目の最大値である《怨念怪人ギャスカ》により《ビックリーノ》《偽りの名 ドレッド・ブラッド》《ステニャンコ》を2枚墓地に整え完璧なスタートを切る。ターン終了時には《ビックリーノ》が盤面に駆けつけるが、ヒラヒラに一切の驕りはない。
ここで「復活の儀」を使い墓地を肥やしてはしずの手札から《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》の着地を許してしまう。墓地には《ステニャンコ》《偽りの名 ドレッド・ブラッド》のセットが。無理をするターンではないとの判断だ。引きの強いパッケージを目の前にしてもミスの類いは起こさない。プレイスでも健在のプレイング技術はやはり目を見張るものがある。
そして先ほどから常に述べている通り、ヒラヒラは何かを”持っている”。それはこの試合でも健在だ。「手札の儀」達成によるGR召喚は本日3度目の《シニガミ 丁-四式》。もはやコイツしか入っていないのでは?と疑う余地すらある。
しかし、ここはDMvault。その手の不正に対してより一層厳しい環境である。
ともかく《シニガミ 丁-四式》がヒラヒラの眼前の着地したのはゆるぎない事実だ。
1ターン目からビッグアクションを取るヒラヒラを横目にしずは淡々と準備をこなす。すでに《天災 デドダム》で自然マナはあるため、2コストで《レッツ・ゴイチゴ》を使い次の動きにかける。前の試合では、マナセットしかできなかった、させてもらえなかったしずにとって、次の動きに幅が出るのは大きなアドバンテージだ。アグロ零龍のテリトリーであるマナ域から1ターンでも速く抜け出してしまいたい。
ヒラヒラのターンが始まる。長いデュエルマスターズの歴史でも、2ターン目にここまで取れる択の多いデッキは無いだろう。
まずは《シニガミ 丁-四式》を《ステニャンコ》に変換し《シニガミ 丁-四式》のpig、「復活の儀」と合わせて4枚の墓地肥やしに成功。《怨念怪人ギャスカ》が送り込んだのは《ステニャンコ》だけではなかったはずだ。《偽りの名 ドレッド・ブラッド》は《ステニャンコ》と《ビックリーノ》を破壊して「破壊の儀」を達成。《シニガミ 丁-四式》の置き土産である《ブラッディ・クロス》を回収することで「墓地の儀」も確約。
今大会最後の零龍卍誕である。
しずが祈るはマナ加速+GR召喚のトリガーのみ。
どちらかだけでは足りない。どちらもなくてはならない。
ならなかった。
《フェアリー・ライフ》だけでは足りなかった。
この勝負のはじまりである《怨念怪人ギャスカ》がエンドマークを打った。
しず 1-2 ヒラヒラ
WINNER:ヒラヒラ!!!!
本記事内で何度も述べている、ヒラヒラの環境観察眼は抜きん出ている。
環境に多いとされる4cデイヤーに対して有利を置けるという点でアグロ零龍は他より優れている。同じく4cデイヤーに有利とされる赤単B-我とも差別点を明確にあげていた。
筆者も含めて、現在主にデュエルマスターズを競技レベルでプレイしている年代は20代30代であると認識している。そんな中、弱冠高校生にしてここまでの技術を有しているのを確認すると舌を巻く。
自分は素直に敬意を示したい。
第1回の深夜vault部模擬全国大会はヒラヒラの優勝で幕を閉じた。高いビルディング戦であったと改めて思う。Twitterで選択したデッキの理由を眺める、思考を巡らす。環境に片時でも身を置いたものならきっと楽しめるだろう。
素敵な企画を用意してくれた深夜vault部の皆さん、flatさんやまひろさん、黒木氏さんをはじめとした運営やスポンサーの方々にこちらで御礼を述べるとともに本記事を締めさせていただく。