山梨Dynamite(山梨DM林間学校)レポート 前編 ~長い長い朝の戦い~

by 神結

「やぁAーくん、おはよう。6時だよ」

電話の向こう口から、魂が抜けたような答えが返ってくる。既に目覚ましを二つ貫通したという彼の言葉には、当然ながら生気がなかった。今にも眠りに落ちそうな彼に二度三度朝であることを告げ、電話を切る。

11月2日の長い朝は、こうして始まった。

 

――――

山梨DM林間学校について、先に少し説明しておこうと思う。

【参考HP】https://dmdynamite.jimdofree.com/ 

山梨DM林間学校とは、山梨県の河口湖にある保養施設にて一泊二日で行われるCSである。参加者はCSに参加しながら温泉や食事会などを楽しみ、Dynamiteな夜を過ごすことが出来るのだ。

(少し細かな話をすると、山梨DM林間学校はDynamiteシリーズとANNEXシリーズに分かれている。
 Dynamiteシリーズだと施設の体育館とメイン館を借りて開催する大規模なイベントとなり、現状では年に一回開催されている。
 対してANNEXシリーズは別館を丸々貸し切って行われるイベントで、人数は絞られてしまうものの貸し切りであるためロビーで酒を飲んだり騒いだりしても怒られないという特徴がある)

山梨県というのは東京から程よく近く、車や特急を使えば非常に参加しやすい。何よりいつもカードをしたり酒を飲んだりしてる連中とお泊まりイベントが出来るということで、私もAーくんらと共に「俺たちが山梨DynamiteのDynamiteになるんだ」と喜んで参加を決めたのだ。

さて、そのAーくんの話である。
個人情報保護?のためにイニシャル表記をしているが、彼はDMPランキングを先頭に立って引っ張るようなまごうことなきトッププレイヤーだ。

だが一転その私生活は……敢えて言うなら我々にその眩い生き様を見せ付けてくれる人であり、寝過ごしや電車の乗り逃し、乗り間違えなどは日常茶飯事。品川ー東京間を新幹線で移動するという記録を持っていたり(コスパ的に言えば青銅の鎧を破壊するのにバロムを召喚するようなもの)、出発日の翌日の夜行バスを予約するなどという、輝かしい実績を持っているのだ。

今回の私の最大の任務はというと、彼を無事に山梨に連れて行くことである。



事前準備

童歌とうりゃんせでは「行きはよいよい帰りは怖い」とあるが、この場合は逆だ。
“帰り”というのは「自宅」という明確な目的地があり、”行きの逆をやればいい”ため最終的には辿り着ける。
だが”行き”には明確なタイムリミットがあり、そして未知の場所に向かう都合、土地勘もない。行きは怖いのだ。

もっとも、東京から河口湖までの行くのは、そんなに難しくない。新宿から河口湖までの富士回遊という直通の特急がある他、あずさ・かいじ等で大月まで行けば、富士急行に乗り換えるだけでよい。その他、バスタ新宿から高速バスも走っている。移動時間はだいたい1時間半~2時間くらいで済む。

最終的に10時30分に河口湖に着けばいいので、8時過ぎくらいの電車に乗れば間に合うのだが、何せ今回の相棒はAーくん。わずか5分の乗り換え時間の間に立ち食い蕎麦を提案するような男なので、「直通の方がいいよなぁ……」となり、少し早いが7:35の富士回遊のチケットを取得した(Aーくんには、出発時刻を7:30と伝えておいた)。

そして6時に当日起きる必要があるとのことで、モーニングコールをすることを宣言。会う度に念押ししておいた。

これで万全だろう。今日はぐっすり寝よう。



いざ、出発

さて、当日朝を迎えた。やや肌寒いが天気はよく、電車も快調に走るだろう。

Aーくんに6時に電話したところ、冒頭のようなやりとりは経たが起きたことは確認出来たため、ひとまずスタートラインに立てたことに安堵した。
ただAーくんの行動を考えると、7時半の電車と伝えると7時半に駅に着きそうなことと、チケットを私が持っていることからうまく落ち合わないと間に合わない可能性に気付き、集合場所と時刻を明確に伝えることにする。


そして送ったLINEはというと、既読が付かない。

これは……二度寝!

「え、このタイミングで二度寝とかするもんなの?」と思った読者諸氏は、はっきり言って浅い。眠さというのは、全ての行動理念を超越して人に睡眠をもたらすのだ。いや、頑張れよというかもしれないが、これは頑張れる頑張れない以前の問題。
朝起きられない人間は朝起きれらないだけで、別に罪はないのだ。二度寝する人も二度寝したかったわけだけでなく、結果として二度寝してしまっただけなので、別に罪は……うーん……?

こうしてAーくんに二度目のモーニングコールを掛けた後、万が一のことを考えて、予定を30分早めて新宿に出発。これで大丈夫だろう、とホッと一息吐いた頃合いだった。

今度はAーくんの方が電話が掛かってきたのだ。

なんだろう、ものすごーく嫌な予感がする。いや、だって起きられたし。気のせいだろ、さすがになんかこう……なんかあるんだろう。
恐る恐る電話に出ると開口一番、彼はこう言った。

「ごめん、財布探してたら7時半に間に合わない」

嗚呼。
そうか、そう来たか。
いや、やってくれるとは思ってたよ。
それは鳥が翼を広げて飛ぶように。
水が高所から流れるように。
ハンデスしたらトップで回答引かれるように。
お祈りジャスキルがジューザーを踏んづけて通らないように。
ごく自然な、ありふりれたこの世の理だ。

とかそんなのんきなことを言ってる場合ではなく、何かしら手を打たなければならない。
実のところこういう事態に慣れているのか、Aーくんは極めて冷静に次善の案を出してくる。想定外に動揺しない。こういうところが、彼に勝利をもたらすのだろう(?)。
結果的に万が一を考えて(この一記事で一体何回の”万が一”が出てきたんだろう)、早い電車を取っていたのがよかった。
加えて自分が30分早く駅に着いたことも幸いし、みどりの窓口に並んでチケットの交換をする時間も出来ていた。
二人の連携プレイ(?)で、ミスをケアしたのだ。

先に行く選択肢もあったが、やはりそこはAーくんである。結局チケットを自分の分も変更して30分あとの特急を取り、無事Aーくんと合流することが出来た。そしてどうにか、特急に乗り込むことに成功したのだった。

Winner:Aーくん

違うそうじゃない。
ちなみにAーくんはこの日たまたま財布に1000円しか入っていなかったため、置いていく選択をすると山梨に来れない可能性が非常に高かったことも付け加えておく。そうだよな、財布探してたら、中身の確認するまでの時間はないもんな。

そうこうするうちに他のメンバーとも電車内で合流し、河口湖にはなんとか10時過ぎには辿り着くことが出来た。
長い長い朝が終わった瞬間であった。

時間に余裕のある便のチケットを取らなければ、
朝に二度目のモーニングコールをしなければ、
何かを察して駅に30分早く着かなければ、
自分の分も含めてチケットの変更をしなければ、

全ての計画が水の泡に化すところだったわけである。

戦いとは、万全を期した上で戦況を読み、細い線を手繰り寄せ、最後に運をも掴んだ者に勝利が転がってくる(みたいなことをきっとクラウゼヴィッツが書いてる筈)。自慢ではないが、誰がなんと言おうと、この日一番プレイが上手かったのは自分たちである、と声を大にして言いたい。(ちなみにCSは二人とも予選落ちしました)

 

なお、みみみちゃんもばっちり寝坊してflatに家凸されて叩き起こされた上で、財布を忘れたらしい。
仲良しか、コイツら。

(山梨DM林間学校レポート 後編 ~ちゃんとしたイベントレポート~ に続く)