by 神結
意図があって起こした行動だったのに、結果として想定外のことが起きた……というのは、日常生活においてもしばしば起こることだ。
(例)
・プログラミングのバグを直したら、今まで動いてたはずの部分がバグった
・食用のために放流したブルーギルが勝手に繁殖して生態系を破壊した
・ハブを駆除するためにマングースを放したら、マングースが固有種のヤンバルクイナを食い荒らした
・蚊の退治のために蚊取り線香に火を付けたら、何故か小火になった
我々は全ての事象を想定することは出来ないので、こうした事態が発生するわけだ。
そして、それはカード開発においても同じらしい。
ここでいう”意図せぬ”というのは「開発側が想定していなかった(であろう)使い方によって活躍したカードたち」を指している。また、「後から相性の良いカードが出てきた」場合はこの項目では取り扱わない。(《黒神龍ザルバ》はやや例外的だが、そこはご容赦を)
目次
《海王龍聖ラスト・アヴァタール》
■シールドゾーンにカードが加えられた時、そのプレイヤーは自分自身のシールドの中から1枚選び、墓地に置く。
■W・ブレイカー
■自分の最後のシールドがブレイクされる時、カードを1枚引いてから、そのシールドをブレイクする。そのターン、クリーチャーは自分を攻撃できない。――ラスト・アヴァタールは一度だけ時を止める。その先に待つ運命を変えるために。
明確に作成意図と違う使われ方をした代表といえば、この《海王龍聖ラスト・アヴァタール》が最初だろう。
登場はDM24弾、極神編。2007年だ。
本来のこのカードの役割は3つ目、最後のシールドがブレイクされる際に一度だけ時を止め、ターンをもらうという受けのカードだ。これは記載されているフレーバーテキストからも想像出来るだろう。
だが”悪用”されたのは一つ目の効果だ。
この効果は3つ目の効果を”悪用”されないためのテキストである。すなわち《深緑の魔方陣》等で毎ターン《海王龍聖ラスト・アヴァタール》の効果を使われてはいけないので、シールドの追加を制御したものだ。
だが自身にのみ抱えるデメリット効果だと弱いと考えたのか、両プレイヤーともこの効果の適用範囲となる。
で、それが駄目だった。
「今だ!この隙にシールドを展開し直せ!」 自分のシールドを展開し直す想定……?
それが《アクア・パトロール》の存在である。登場は15弾。《聖霊王アルファディオス》や《バジュラズ・ソウル》といった強力なカードが収録される中で、「相手の埋めたシールドを入れ替えたりは出来るけど、お前それは流石に……だったら《呪紋の化身》使うじゃん……」というハズレベリーレア枠だったカードである。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、プレイヤーをひとり選ぶ。そのプレイヤーは自分自身のシールドの枚数を数え、それを山札に入れてシャッフルし、その後、山札の上から同じ枚数のカードを裏向きのまま自分自身のシールドゾーンに置く。
ところが《海王龍聖ラスト・アヴァタール》の登場によって、事情が変わった。
ラストアヴァタール下で《アクア・パトロール》を出すことによって、相手のシールドを全て焼却出来るという当時のゲーム性を悠々を破壊してしまうコンボ(通称「ラストパトロール」)が完成してしまったのだ。
これは流石に危険と判断されたのか、《海王龍聖ラスト・アヴァタール》の登場して約一月半くらいで、《アクア・パトロール》が緊急プレ殿となっている。
(なお余談だが、コンビ殿堂とした場合は実質的に《海王龍聖ラスト・アヴァタール》が使えないカードとなってしまうため、それを避けたと思われる。というのも、自分のデッキに《海王龍聖ラスト・アヴァタール》を入れたい場合でも、相手に《アクア・パトロール》が入っているだけで突然シールド5枚を焼却される懸念があるためだ)
なお現代デュエルマスターズにおいては《Vチャロン》と《禁術のカルマ カレイコ》で同様の動きが可能である。
《邪神M・ロマノフ》
■Mデッキ進化-自分の山札の上から3枚を表向きにする。その中からクリーチャーを1体選び、このクリーチャーをその上に重ねつつバトルゾーンに出す。表向きにした残りのカードを自分の墓地に置く。表向きにしたカードの中にクリーチャーが1枚もない場合、このクリーチャーを手札に戻し、表向きにしたカードをすべて墓地に置く。
■メテオバーン – このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーの下にあるカードを1枚選び墓地に置いてもよい。そうした場合、火か闇のコスト6以 下の呪文を1枚、コストを支払わずに自分のマナゾーンから唱える。
■G・リンク《邪神R・ロマノフ》または《邪神ゼロ・ロマノフ》の左横。
想定外かというと怪しいラインかもしれないが、ひとまず解説を。
初出は2010年1月発売の「マッド・ロック・チェスター」のスーパーデッキより。(お年玉も残っているシーズンだったためか、近所の子どもたちも結構買っていたと記憶)
本デッキに於ける《邪神M・ロマノフ》は墓地を作りながらアドバンテージを獲得し、《邪神C・ロマノフ》とのゴッドリンクへ繋げる、といったカードであった。が、このカードのポテンシャルはそんなものでは済まなかった。
デッキ構成上ほぼ外すことのないMデッキ進化と、マナから任意の6以下の呪文撃てる効果は強力などというものでは済まず、《邪神C・ロマノフ》と切り離されて単独で大活躍を始めた。
《憎悪と怒りの獄門》のワンショットや、《ダンディ・ナスオ》、《青銅の鎧》に《魔弾ベター・トゥモロー》を添えて殴り切るビートダウンデッキ、そして超次元呪文が登場してからは《時空の探検家ジョン》、《時空の英雄アンタッチャブル》と組み合わせた超次元ビートなども開発され、結局プレミアム殿堂に掛かるまで環境上に居座り続けたのである。
《デビル・ドレーン》
自分のシールドから好きな枚数を裏向きのまま選び、自分の手札に加える。ただし、その「S(シールド)・トリガー」は使えない。
《光姫聖霊ガブリエラ》
■G・ゼロ – 自分のシールドが1枚もなく、バトルゾーンに自分の《光姫聖霊ガブリエラ》が1体もなければ、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
■W・ブレイカー
■相手クリーチャーの攻撃によって、相手がゲームに勝つ時、かわりにこのクリーチャーを破壊してもよい。そうした場合、相手はゲームに勝たず、このターン中クリーチャーは攻撃できず、自分の次のターンの終わりに自分はゲームに負ける。
《憎悪と怒りの獄門》
相手のシールドが自分のシールドより多ければ、この呪文を唱えることができる。 自分のシールドと同じ枚数のシールドを、相手は自分自身のシールドゾーンから選ぶ。相手は残りのシールドを持ち主の手札に加える。(その「S・トリガー」を使ってもよい)
特に《デビル・ドレーン》+《光姫聖霊ガブリエラ》+《憎悪と怒りの獄門》のギミックは秀逸だった。《デビル・ドレーン》で全てのシールド回収した後にS・バックの《天真妖精オチャッピィ》でマナを伸ばしつつ《光姫聖霊ガブリエラ》で次のターンを耐え、続くターンに《邪神M・ロマノフ》から《憎悪と怒りの獄門》を撃って勝負を決める。つまり、4キルである。マナに呪文を置くのは、《ダンディ・ナスオ》が担当した。
こうしたスーサイド戦術(MTGや遊戯王では一般的な、自身のライフを削りながら強力なカードを使用していくこと)が一般的ではなかったデュエマに新たな概念をもたらしたデッキとも言えるだろう。
(※《憎悪と怒りの獄門》自体はデッキにも収録されており、開発側の意図した運用と思われるが、あくまで速攻対策であって《デビル・ドレーン》との組み合わせまでは想定しなかったように思う。なお《デビル・ドレーン》は3弾のカードで再録はなく、それまで特に使われるカードでもなかったため取扱いも少なく、一気に入手困難カードと化した。「後から相性の良いカードが登場した」典型的なパターンである)
余談だが、《デビル・ドレーン》+《光姫聖霊ガブリエラ》のギミックは後に凶悪デッキとして名高い『ヒラメキスネーク』にも受け継がれている。
《遊びだよ!切札一家なう!》/《カレーパン・マスター 切札勝太》
■このクリーチャーがバトルする時、「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」と聞いてもよい。そうした場合、そのターン、このクリーチャーのパワーは+2000される。
■覚醒 – このクリーチャーがバトルに勝った時、このクリーチャーをコストの大きいほうに裏返す。(ゲーム開始時、サイキック・クリーチャーは山札には含めず、自身の超次元ゾーンに置き、バトルゾーン以外のゾーンに行った場合、そこに戻す)
■バトルゾーンにあるコスト6以下のクリーチャーはすべて、種族に「カレーパン」を追加する。 このクリーチャーのパワーは、バトルゾーンにある他のカレーパン1体につき、+1000される。
■自分のターンのはじめに、「カレーパンを食ってやるぜぇ!」と言ってもよい。そうした場合、そのターン、このクリーチャーはタップされていないカレーパンを攻撃できる。
■W・ブレイカー
初出はコロコロコミックの付録で、カードから勝太の大好物であるカレーパンの匂いがするという妙なカードであった。それ以外にも効果でカレーパンを探したり、覚醒後は他のクリーチャーに「種族:カレーパン」を追加したりと、テキストだけを見れば普通にネタカードである。
もっとも、”使用可能”なカードであれば、なんでも使い倒そうとするのがTCGプレイヤーである。このクリーチャーが火のハンターであること、バトルに勝つことで覚醒し、パンプアップするコスト10のカードであることから、(色々とツッコミ所が多い凶悪デッキと噂の)「紅蓮ゾルゲ」のループパーツになることがわかると、当然のように採用されていった。
《偽りの名 ゾルゲ》
■このクリーチャーまたは自分の他のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある別のクリーチャーを1体選んでもよい。そうした場合、その2体はバトルする。
■W・ブレイカー
《紅蓮の怒 鬼流院 刃》
■自分の自然または火のハンターがバトルに勝った時、それよりコストが小さいハンターを1体、自分の超次元ゾーンまたはマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
■W・ブレイカー
このデッキのループは(背景ストーリーでハンター陣営を騙し続けていたのにハンターと相性のいい)《偽りの名 ゾルゲ》とパワーが低い(一体は紅蓮より、もう一体はカレーパンマンよりパワーが低いこと)何らかのクリーチャーが2体がバトルゾーンにいるときに、(ハンターなのにゾルゲと徒党を組んでる)《紅蓮の怒 鬼流院 刃》を出すことでスタート。
- 紅蓮がゾルゲ効果で他のクリーチャーとバトル。勝ってカレーパンマンをバトルゾーンに。
- カレーパンマンがゾルゲ効果で他のクリーチャーとバトル。勝ってコスト4以下のハンターをバトルゾーンに。
- カレーパンマンを覚醒。
- 覚醒したカレーパンマンがコスト4以下のハンターとバトル。勝ってヴォルグサンダーがバトルゾーンに。
- ヴォルグ効果。
- カレーパンマンがヴォルグとバトル。超次元に帰ったばかりのヴォルグがまたバトルゾーンに。(5に戻る)
といった具合に無限ヴォルグサンダーが成立する。
ところで《遊びだよ!切札一家なう!》がバトルするクリーチャーのパワーが4000~5500の範囲内の場合、「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」と言う必要がある。これをうっかり忘れると、ループは失敗する。
冷静に考えて欲しい。CS会場やらショップ大会に行けば、オタクがライブ会場でもないのに「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」と未だ見ぬカレーパンを探して求めて叫んでいる。東大卒のクールな彼も、高級住宅街に住まう深窓のお嬢様でも宣言するのはもちろん「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」。「カレーパンはどこですか?」では効果は起動しないのだ。「どこじゃ?」「どこにあるのかしら?」でも駄目だし、正確には「どこじゃぁぁぁ!」なので、「どこじゃぁぁぁ」でも駄目。
ちなみにその先に待つのは無限ヴォルグサンダーによる敗北である。もちろんプレイヤーとすれば、カレーパンの行方どころの場合ではない。
こうした異常事態を重く見たのか(?)、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》と《偽りの名 ゾルゲ》は2012年にプレミアムコンビ殿堂となった。実際問題、環境上でもこのコンボデッキは非常に活躍しており制限は妥当だったと言えよう。
なお、2017年にはこの規制は解除。この時《偽りの名 ゾルゲ》の他、《遊びだよ!切札一家なう!》も微妙に値段が上がったらしい(5年経ってもカレーパンの匂いは健在だったとか)。現在はフィニッシャーである《ヴォルグ・サンダー》がプレ殿となってしまったので、この形で遊ぶことは不可能である。
《S級原始 サンマッド》
■進化-自分の自然のコスト3のクリーチャー1体の上に置く。
■S級侵略 [原始]-自然のコスト3のクリーチャー(自分の自然のコスト3のクリーチャーが攻撃する時、自分の手札またはマナゾーンにあるこのクリーチャーをその上に重ねてもよい)
■自分のクリーチャーが3体以上あれば、このクリーチャーに「T・ブレイカー」を与える。
■このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、バトルゾーンにクリーチャーが4体以上あれば、そのうちの1体を選び、持ち主のマナゾーンに置く。
初出は2015年発売の革命編第3弾「禁断のドキンダムX」より。背景ストーリーでは他のS級侵略者とともに海底都市でミラダンテと戦い、敗北した。
このカードは3打点かつ除去も出来るという非常に優秀なアタッカーで、「3軸ベアフガン」や「赤緑サンマッド」といったデッキでその高い攻撃性能を発揮していた。恐らく(背景ストーリーでの役割も含めて)アタッカーでの運用を想定したカードであり、後に登場したリメイク版《S級原始 サンマックス》の能力からもその意図は窺える。
サンマックスはサンマッドのいわばリメイク版。
現在はGRクリーチャーと相性がよく、赤白サンマックスのアタッカーとして活躍中。
原始の侵略者たちは数字を3までしか覚えられないという設定があるが、ところが研究が進んでいくと《龍覇 イメン=ブーゴ》や《龍覇 サソリス》、そして最後は《ベイB ジャック》といったループデッキ(少なくとも3工程以上の手順はある)の主要パーツとなった。
その主たる要因となったのは4つ目の効果である「バトルゾーンにクリーチャーが4体以上あれば、そのうちの1体を選び、持ち主のマナゾーンに置く」という部分だ。
つまりは、自分のクリーチャーをマナに戻すことが可能。《邪帝遺跡 ボアロパゴス》や《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》を組み合わせて進化元や複数枚の《S級原始 サンマッド》を重ねた状態でマナに戻すことにより、マナのアンタップループを成立させてしまったのだ。(それぞれのループ手順は非常に長いため省略。気になる人はググってみてください)
加えて元々アタッカーとしての素質も高いことから、「まあループ回らなくとも殴ればいいか」というビートプランをも非常に強力にしてしまい、緑単系統のデッキの凶悪性をより高めてしまったと言えるだろう。
特に最速4ターンで完全ループが成立する「緑単ベイBジャック」は流石に許されないデッキであったか、2017年夏に《アラゴト・ムスビ》や《大勇者「鎖風車」》といった主たるループパーツとともに殿堂入り。なお最大の元凶たる《ベイB ジャック》がお咎めなしだったため、更なる悲劇が生まれてしまった。
《黒神龍ザルバ》
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手はカードを1枚引く。
環境上で大活躍をした訳ではないが、このカードには言及しておきたい。
初出は2004年末、聖拳編第三弾「魔封魂の融合(エターナル・ボルテックス)」より。名高き《暗黒王デス・フェニックス》らの同期であり、進化元としても考慮されていると思われる。
当時のドラゴンゾンビという種族は「パワーが高い代わりに何らかのデメリット持ち」というカードが多く(自身のクリーチャーを破壊してしまう《黒神龍ゼキラ》や、4コストのWブレイカーながらバトル後は破壊されてしまう《黒神龍ギランド》など)、この《黒神龍ザルバ》も系統としては同様の筈だった。
ところが「相手はカードを1枚引く」という効果は強制。
これはつまり、《黒神龍ザルバ》を無限回数バトルゾーンに出すことによって相手を強制的に山札切れに追い込むことができる。この「ザルバを無限に出す」というギミックは、後に『エシャロットタイフーン(※1)』や『ヘルゲートムーンライブラリアウト(※2)』などに組み込まれていき、《黒神龍ザルバ》は愛好家たちにはすっかりお馴染みのカードとなった。
※1 エシャロットタイフーン:「このターン、自分のカードを手札またはバトルゾーンから墓地に置く時、墓地に置くかわりにマナゾーンに置いてもよい。」という《剛勇霊騎エシャロット》の効果を使い、《氷牙フランツI世》等の呪文軽減下で《エマージェンシー・タイフーン》・《クローン・ファクトリー》を連打することでマナを無限にアンタップするデッキ。最後は《母なる紋章》で《黒神龍ザルバ》を回して勝利する。現在《剛勇霊騎エシャロット》の裁定が変更されたためこのループの再現は不可能だが、別に過去の環境でこのデッキが強かった訳ではない。
※2 ヘルゲートムーンライブラリアウト:cipで墓地のクリーチャーを全て出すという《神羅ヘルゲート・ムーン》の効果を使い、黒ループでお馴染み《百発人形マグナム》を使って《黒神龍ザルバ》を無限回場に出すというループデッキ。余談だが筆者はその昔、運悪くこのデッキの愛好家と仲が良くなってしまったため、恐らく世界一このデッキに負けた回数が多い。
後にBBPで再録された際のフレーバーテキストは、中々興味深い内容となっている。
本来は相手を喜ばせる技。しかし、現実は相手を苦しめる技。
《オマケ》
コイツはそもそも何を意図して作成されたかわからないので、除外。